アルバム「A Day At The Videodrome」がDream Catalogueで2月18日に発売されました。
Dream Catalogueからアルバムのリリースを打診された当初は私自身の「Dreampunk」であり、架空のサイバーパンク映画のサウンドトラックになるような音楽を作りたいと思っていました。
でも、架空の映画のサウンドトラックは、日常が映画に近づくにつれて現実のモチーフにシフトしていきました。
今自分がまるで映画の中にいるようだと感じることが増えていったからです。
そこで、天気予報や車の音など、日常生活の中からサンプリングした音を元に映画をテーマにした音楽を作りました。
サンプリングはまた、2814 – “新しい日の誕生 “へのリスペクトでもあります。
今回は自分の好きな落ち着けるアンビエントサウンドとアグレッシブなビートを用いて自分なりの “Dreampunk “を表現してみました。
カバーアートはDream Catalogueの代表であるDavid Rossoが担当しています。
HKEとして、そして2814としてDreampunkというジャンルを提唱した方によるアートは本当に今作にぴったりだと思います。ありがとうございました。
以下に各曲の解説です。
1.In Hindsight
誰かが高いところから夜の街を見ている。
そこには彼女以外誰もいない。
これはNo Problema Tapesのコンピレーションに収録した “Hindsight “という曲をリメイクしたものです。
前半のアンビエントを引き伸ばし、ギターを加えて、より生々しいアンビエントサウンドを作りました。
(私はパッドやシンセの音をギターで作ることが多くて、リリースされている曲の中で、シンセサイザーに聞こえるものの半分くらいはギターで弾いています。)
歌詞:
“見てただけだった
人が消えていくこの街を
ただ、見ていただけだった
関係ない関係ない関係ない
僕には関係ない
楽しむだけ楽しんで
主張するだけ主張して
関係ない関係ない関係ない
僕には関係ない
だって僕は当事者じゃないし
言ってどうなる知ったこっちゃないし”
2.Raining Again
朝、一人の女性が目を覚ます。
そしてその世界では毎日のように雨が降っている。
この曲は、サンプリングされた雨音を用いたアンビエントサウンドで構成されています。
“Blade Runner”に代表される様に、サイバーパンクと雨は密接な関係にあると私は思います。
それに限らず、映画のなかで雨は、例えば美しい光の世界の表現であったり、悲劇の象徴であったり、何かを暗示するものであったり、そういった重要なシーンを作ることが多いと感じます。
歌詞 :
“今日も雨、いつも雨”
3.Automatic Driving
彼女は身支度を終え、車の電子キーを操作して車に乗り込む。
最近、友人の車に乗りました。
それには自動運転機能がついていて、高速道路を走っている時なんかはハンドルを握る必要がないくらい。
しかもミラーはデジタルモニターに切り替えられるし、自動ブレーキや様々なアシスト機能が搭載されていました。
SFの世界は想像していたほど派手にではないかもしれないけれど、確実に実現していると感じた瞬間でした。
歌詞 :
“連れてってあげる”
4.Today’s News In Numbers
彼女はニュースをチェックし、今日もまた世界に数字があふれていることを確認する。
これはテレビのニュースを録音し、サンプリングして作成しました。
テレビを見ていると本当に世の中の様々なことが数字として日々動いていると感じます。
天気予報のサンプリングが多いのですが、それはVaporwaveのサブジャンルである”Signal Wave”へのオマージュも多少意識しています。
5.Centralization Of Dream
彼女は静かに目を閉じて、夢の中に入る。現実と夢の境目は溶けてなくなっていく。
これもテレビで流れていた音をサンプリングして作りました。
夢の中のような、瞑想の導入のような、自分の中に入っていくための音を作ろうと思いました。
6.A Sound Of An Abundance Of Rain
彼女は誰かの演説を聞いている。
絶え間ない拍手の音と雨の音が混ざって区別がなくなる。
Paula Whiteが行った米大統領選の応援演説のサンプリングを用いました。
最初に聞いた時、単純に音声として面白く感じたので使用しました。
彼女の演説のなかで恵まれた雨音、という意味の言葉が頻出するのでそれを曲名にしました。
世界の分断、感染症の拡大。
そういった様々なことが起こる世界の中の、大きな責任を持つ国の選挙で実際にあった応援演説の音声です。
これは、現実のサンプリングです。
7. A Day At The Videodrome
彼女は群衆の中で、自分がするべき何かを見つけ出す。
アルバムのタイトルにもなっているこの曲は、映画「Videodrome」にインスパイアされたものです。
映画のナンセンスで、シニカルで、どこか破滅的なところが気に入っています。
このアルバムを通して表現したかった映画の最後の場面です。
刺激的で過激な動画はどんどん増えていっています。
現実の様な動画が増える一方、現実は映画の様に馬鹿げたことばかりです。
今、あなたが画面を通して見ているものはリアルなのかバーチャルなのか、確信が持てますか。
そう言ったメッセージを映画”Videodrome”からも、今の現実からも私は受け取りました。